この記事でわかること

  • 腰部脊柱管狭窄症のしくみと代表的な症状
  • リハビリを始める前に必ず確認すべきポイント
  • 自宅でも取り組めるストレッチ・筋力トレーニング・有酸素運動の具体的手順
  • 痛みが強いときや手術後のセルフケアと注意点

 

腰部脊柱管狭窄症とは

脊柱管とは、背骨の中を通っている神経の通り道です。加齢による椎間板変性、椎間関節の骨棘形成、黄色靭帯の肥厚などで通路が狭くなると、神経や血流が圧迫されてお尻から脚にかけての痛み・しびれ・力の入りにくさが出ます。一定距離を歩くと痛みが強くなり、前かがみで休むと楽になる「間欠性跛行」が典型的です。
重い麻痺や排尿・排便障害がなければ、まず**薬物療法と運動療法(リハビリ)**で改善をめざします。


 

リハビリを始める前にチェックするポイント

チェック項目確認内容進め方の目安
神経症状筋力低下・しびれ範囲・膀胱直腸障害明らかな麻痺・排尿障害があればすぐに医師へ相談
痛みの強さ0〜10 の数字で主観評価安静時 7 以上なら痛みコントロールを優先
生活環境立ち仕事、長距離通勤など誘因通勤時コルセット・椅子の高さ調整など環境整備
画像所見とのギャップMRI の狭窄レベルと症状の位置痛みの部位が画像と合わないときは原因の再検討

 

リハビリの基本方針 ― 4つの柱

なぜ大切?具体的な目標実践のコツよくある間違い
① 骨盤を軽く後傾させる姿勢づくり腰を反らすと脊柱管が狭くなるため、少し丸めると神経の余裕が生まれ痛みが減る立位・座位で30秒楽に保持仰向け膝立て→背中を床へ押し付け5秒→その感覚で立位背中だけ丸めて頭が落ちるいわゆる“猫背”
② 股関節・下肢の柔軟性アップ股関節が硬いと代償で腰が反りやすい前屈で指先が足首より下、腸腰筋伸展15°以上毎日朝晩:膝抱え・腸腰筋・ハムストリングスを各20秒×3反動をつけて痛みが走る/息を止める
③ 体幹深部筋(腹横筋・多裂筋)の活性化深部筋は“天然コルセット”。弱いとわずかな姿勢変化で痛みが再発ドローイン10秒呼吸×10が楽にできる仰向け→膝立ち→四つ這いアームレッグへ段階的に腹を凹ませすぎ息を止める/腰を反らしてヒップリフト
④ 前傾姿勢の有酸素運動歩行中の血流不足を改善し間欠性跛行を克服連続歩行 50→200→500 m と伸ばすエアロバイク30秒漕ぎ30秒休み×15分→トレッドミル1分歩き1分休み×20分痛みを我慢して歩き続け悪化/ハンドルを持たず腰を反らす


 

 

具体的なエクササイズ手順

ストレッチ(朝夕各1セット)

  1. 膝抱えストレッチ
    • 仰向けで片膝を胸に引き寄せ10秒キープ、左右各5回
  2. 腸腰筋ストレッチ
    • 片膝立ちで骨盤を後傾しながら前方へ体重移動し20秒保持、左右各3回
  3. ハムストリングスストレッチ
    • 椅子に足を乗せ背すじを伸ばしたまま股関節から前屈し20秒保持、左右各3回

 

体幹筋トレ(週3~4日)

エクササイズ方法回数・セット
ドローイン仰向け膝立てでお腹を薄くして5秒呼吸10回 × 3セット
ヒップリフト骨盤後傾→お尻をゆっくり上げ3秒保持10回 × 2セット
四つ這いアームレッグレイズ右手+左脚を伸ばし3秒、反対も各10回 × 2セット
クラムシェル横向きで膝を開閉し中殿筋を鍛える各15回 × 2セット

有酸素運動(痛みスケール3/10以下で実施)

フェーズ内容目標
初期エアロバイク:30秒漕ぎ30秒休み×15分痛みなく15分継続
中期トレッドミル:時速3 km、前傾バー保持で1分歩き1分休み×20分連続歩行200 m達成
後期屋外ウォーク:ポール使用で5分歩き休む×6回連続歩行500 m達成

 

痛みが強い日のセルフケア

方法ポイント
短時間コルセット外出時のみ最大2–3時間使用、室内は外す
温熱療法入浴やホットパックで15分温めたあとストレッチ
薬物のタイミング痛み止めは運動30分前に服用し効果的に利用

 

よくある質問(FAQ)

Q. 痛みがある日はストレッチだけで良いですか?
強い痛みがあるときはストレッチと温熱で血流を促し、筋トレや有酸素は翌日に回します。痛みが翌朝まで残るときは運動量を 30 % 減らしましょう。

Q. コルセットを外すタイミングがわかりません。
安静時痛が 2/10 以下になり、日常動作で腰を反らさなくても動けるようになったら 1 日 1 時間ずつ装着時間を減らし、最終的に外します。

Q. 有酸素運動はどれくらいの速さで歩けばいいですか?
痛みが出ないギリギリの速さが基準です。目安として時速 3 km 前後から始め、痛みが増えない範囲で 0.5 km/h ずつ上げます。


 

まとめ

  • 腰部脊柱管狭窄症は 姿勢調整・柔軟性向上・深部筋強化・前傾有酸素運動 の4本柱で症状を軽減できます。
  • 運動は痛みスケール3/10以内で継続し、翌日に痛みが残れば負荷を下げます。
  • 3か月の継続で歩行距離が大きく伸びる人が多いので、無理のない範囲で続けましょう。
  • 麻痺や排尿障害が出る場合、または痛みが急激に強くなる場合は早めに整形外科専門医へ相談してください。

 

参考文献

  1. Tomkins-Lane C, et al. Effect of Exercise Therapy on Pain and Function in Patients With Lumbar Spinal Stenosis: A Systematic Review and Meta-analysis. Spine J. 2022.
  2. Schneider M, et al. Comparison of Treadmill Walking and Stationary Cycling in Lumbar Spinal Stenosis: A Randomized Controlled Trial. Spine. 2020.
  3. Ammendolia C, et al. Motor Control Stabilization Exercises for Symptomatic Lumbar Spinal Stenosis: A Randomized Clinical Trial. Eur Spine J. 2018.

 

整形外科専門医・医学博士 佐々木颯太

    投稿者 ssksut92

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