朝の関節痛はこうして起こる
滑液の循環がストップする
寝ているあいだは筋肉ポンプが働かず、関節を潤す滑液が“停滞”します。軟骨表面が乾いたような状態になり、起床直後は摩擦が増えるため動き出しがつらくなります。
血行と体温がリズムで低下する
深部体温と血流は明け方に最も低くなります。冷えた関節周囲では組織が硬くなり、伸びにくいゴムのように動作の抵抗が増えて痛みを感じやすくなります。
夜間に炎症物質が増えやすい
リウマチや変形性関節症の人では、夜間に IL-6 などの炎症サイトカインがピークを迎えます。炎症のスパイクにより、朝のこわばりや痛みが長引くことがあります。
寝具と姿勢の“ねじれストレス”
柔らかすぎるマットレスで腰が沈む、あるいは高い枕で首が曲がりすぎると、関節や靱帯に一晩中軽いストレスがかかり、起床時に張りや痛みとして現れることがあります。
自分でできる5つの対策
ベッドの中で関節を潤す準備運動
目が覚めたらすぐ、膝の曲げ伸ばし・足首回し・手指グーパーを各30回。1分以内の“小さな動き”で滑液循環をスタートさせましょう。
3分ストレッチルーティン
- 膝抱えストレッチ 10秒×3
- 腰ひねりストレッチ 10秒×3
- 肩甲骨寄せ・ゆる猫背ストレッチ 10秒×3
布団の上で完結し、体温を上げながら可動域を広げます。
温熱+水分でスムーズスタート
38〜40 ℃のぬるめシャワーを肩・腰に1~2分当てるか、ホットタオルを5分当てると血流が一気にアップ。コップ1杯の常温水を合わせると粘度が下がり動きやすくなります。
日中は「動く→休む」のサイクルを作る
1時間座ったら2~3分歩く、階段を1階分だけ使うなど、こまめに筋ポンプを働かせると、次の朝のこわばりが軽くなります。
夕方のクールダウンで炎症リセット
就寝2~3時間前に軽いストレッチや15分のエアロバイクを行い、関節を温めてからゆっくりクールダウンすると、夜間の炎症スパイクを抑えやすくなります。
生活習慣で押さえたいポイント
体重管理と抗炎症食
体重を5%減らすと膝にかかる荷重が大幅に減ります。夜間の炎症を抑えるオメガ3脂肪酸(青魚・亜麻仁油)やポリフェノール(赤紫野菜・ベリー)を意識しましょう。
良質な睡眠とメラトニンリズム
就寝前のブルーライトを避け、寝室を22〜24 ℃に保つとメラトニン分泌が整い、深部体温がスムーズに下がります。結果として早朝の血流回復が早まり、こわばりが短くなります.
痛みと運動の記録
痛みスケール(0〜10)とその日の運動量・睡眠時間をメモすると、自分の「悪化しやすいパターン」が見つかります。翌日のストレッチ量や運動強度の調整に役立ちます。
よくある質問
Q.痛みが出たら運動はやめるべき?
鋭い痛みや関節が熱を持つような腫れがあれば中止してアイシングを行いましょう。鈍いこわばりで痛みスケールが3/10以下なら、強度を3割下げて続けると血流が保たれ回復が早いです。
Q.サポーターや湿布は寝るときも着けたほうがいい?
夜間装着は血流を妨げることがあります。基本は就寝時は外し、寝起き後に装着して動くときに関節を安定させる方法がおすすめです。
Q.どのくらい体重を減らすと効果が出る?
研究では体重の5%減(60 kgなら3 kg)が痛みと機能改善の目安と報告されています。月に0.5~1 kgの緩やかな減量が推奨されます。
まとめ
- 寝起きの関節痛は滑液停滞・血流低下・夜間炎症・寝具ストレスの組み合わせで起こります。
- ベッドの中ストレッチ→温シャワー→こまめな日中活動の3ステップで朝のこわばりを軽減できます。
- 痛みが強い、腫れが続く、麻痺やしびれが悪化するときは早めに整形外科を受診しましょう。
参考文献
- Cutolo M, et al. Circadian rhythms and arthritis: hormonal and cytokine profiles. Nat Rev Rheumatol. 2019.
- Buttgereit F, et al. Targeting pathophysiological rhythms: prednisolone chronotherapy reduces morning stiffness in rheumatoid arthritis. Lancet. 2008.
- Juhl C, et al. Impact of weight loss and exercise on pain and physical function in knee osteoarthritis: systematic review and meta-analysis. Arthritis Rheumatol. 2014.
整形外科専門医・医学博士 佐々木颯太