この記事のポイント

  • 脂肪由来幹細胞(ADSC)とは何かをやさしく解説
  • どんな仕組みで痛みを減らすのか/どの疾患に向くのかを具体的に紹介
  • 治療の流れ・期間・費用のめやすをイメージしやすくまとめ

 

脂肪由来幹細胞とは?

脂肪組織に含まれる「お助け細胞」で、傷んだ組織を修理モードに切り替える力があります。採取する脂肪は小豆大の粒を4〜5個ほど。局所麻酔を使用した小手術であり、約15分で終了します。


 

どうして効果があるの?

痛みをしずめる“消火”作用

採取した細胞は「消炎ホルモン(IL-10)」を出し、関節や腱の炎症を鎮める働きをします。

壊れた組織を“修理”する材料を作る

細胞がコラーゲン・ヒアルロン酸など修復の材料を分泌し、軟骨や腱のすき間を埋める土台を作ります。

血管を増やして“栄養補給”

**VEGF(血管を生むタンパク質)**を放ち、痛んだ場所に新しい血管を呼び込みます。そこへ酸素と栄養が届き、治りやすい環境が整います。


 

どんな症状に向く?

症状・病気ADSCに期待できること手術や薬との違い
変形性膝関節症(初〜中期)動くときの痛みを減らし、軟骨のすり減りをゆるやかに人工関節に比べ体への負担が小さい
肩・肘などの長引く腱の痛み炎症を抑えてコラーゲン再配列を助けるステロイド注射より腱を弱らせにくい
手術では塞ぎにくい骨の欠け骨の“足場”を作り骨細胞の集まりを促す自家骨移植より痛みが少ない

向かないケース:重度の関節変形、強いO脚、完全断裂した腱など形そのものが大きく壊れている場合は人工関節や縫合手術を先に検討することもあります。


  

治療の流れ・スケジュール

  1. 診察・MRIやエコー検査
  2. 脂肪採取(外来、10〜15分)
  3. 細胞の培養・品質検査(院外の認定ラボ)
    • 約4週間かけて細胞を数千万~1億個まで増やします。
  4. 注射当日
    • 超音波ガイドで関節や腱へ1カ所 2~4 mL注入(10分程度)。
  5. リハビリと経過観察
    • 週1~2回のストレッチ・筋トレ指導。
    • 3か月後にMRI再評価。必要に応じて2~3回目の追加注射を検討。

 

早く効果を出すコツ

運動は「やや楽」レベルで継続

血流を保つ軽いウォーキングやエアロバイクが推奨されます。痛みが3/10を超えたら休憩しましょう。

体重管理

体重を5%減らすだけで膝関節の荷重は15%以上減少します。食事と有酸素運動を組み合わせてください。

タバコと過度の飲酒を控える

喫煙や大量飲酒は血管新生を妨げ、細胞の働きを弱めると報告されています。


 

よくある質問(FAQ)

Q.細胞を外部ラボで培養するのはなぜ?

クリーンルームと厳格な安全検査が必要なため、国の認可を受けた再生医療センターで無菌培養・ウイルスチェックを行います。結果が出るまで2~4週間かかります。

Q.採取した脂肪が少ないと細胞が足りない?

小豆大4~5個で数千万個規模の幹細胞が得られるため、体への負担は最小限です。採取量が不足しても同日に追加吸引が可能です。

Q.効果はどのくらい続きますか?

中等度の膝痛では1回注射で半年~1年の痛み軽減を報告する論文が多いです。症状や活動量に合わせ2~3回の追加で効果が長期化する傾向があります。


 

まとめ

  • 脂肪由来幹細胞治療 は自分の脂肪から抽出した幹細胞を培養して注射する 最新の再生医療 です。
  • 抗炎症・組織修復・血管再生 の三つの働きで 変形性膝関節症や長引く腱障害 をサポートします。
  • 採取は小豆大の脂肪のみ、培養は院外ラボで数週間。通院回数は少なく日常生活に早く戻れます。
  • 費用は自由診療で施設によって異なるため、実績や保証制度を含め整形外科専門医に相談してから決めましょう。

 

参考文献

  1. Pers Y-M, et al. Single-shot adipose-derived stromal cells for knee osteoarthritis: A double-blind randomized controlled trial. Stem Cells Transl Med. 2016.
  2. Kim W, et al. Autologous adipose stem cell injection for refractory rotator cuff tendinopathy: A pilot study. Am J Sports Med. 2017.
  3. Lopa S, et al. Adipose-derived stem cell–seeded scaffolds accelerate healing of critical-size bone defects in vivo. Tissue Eng Part A. 2020.

 

整形外科専門医・医学博士 佐々木颯太

    投稿者 ssksut92

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です