変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減ることで痛みや可動域制限が生じる慢性疾患です。40 代以降の女性に多く、先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全を背景にもつケースも少なくありません。運動療法と生活指導を組み合わせた早期リハビリテーションによって、手術の時期を遅らせたり鎮痛薬の使用量を減らしたりできると報告されています。各種ガイドラインでも 第一選択は運動療法 と明記されています。


  

リハビリテーションの目的

  • 痛みを軽減し、日常生活動作を楽にする
  • 股関節の動きを保ち、歩行速度や歩行距離を向上させる
  • 中臀筋・大臀筋・腸腰筋などの筋力低下を防ぐ
  • 体重管理と姿勢改善によって関節への荷重ストレスを下げる

  

主なリハビリ介入

1.筋力強化

  • 中臀筋・大臀筋の強化 により骨盤の左右動揺を抑え、歩行時の痛みを軽減します。抵抗を加えながらの訓練は股関節外転筋力の有意な向上につながります。
  • クラムシェルやスタンディング・ヒップアブダクションなどの自重・セラバンド運動が基本です。

2.ストレッチと可動域訓練

  • 股関節屈曲・内外旋のストレッチ で「靴下を履く」「車へ乗り降りする」といった動作の不自由さを軽くします。
  • 過伸展や痛みを伴うストレッチは避け、10〜20 秒を 3 回ほど行ってください。

3.有酸素運動

  • ウォーキング、固定バイク、エリプティカルなどを 週 150 分程度 行うことが推奨されています。
  • 体重負荷が少ない 水中ウォーキングやアクアサイズ は痛みと可動域を有意に改善するという報告があります。

4.体重管理

  • BMI を 25 未満に保つことで痛みと機能障害が低下します。5 % 以上の減量で症状が段階的に改善することが示されています。

5.日常生活指導

  • 片脚立位や階段昇降時は手すりを使って荷重を分散しましょう。
  • 立ち上がりでは椅子をやや高く設定すると股関節への負担が減ります。
  • 床に座る動作は椅子座位へ変更することをおすすめします。

6.物理療法

  • ホットパックや温熱浴で筋緊張を緩和します。
  • 超音波や低周波治療は短期的な痛みを和らげる場合がありますが、運動療法の代わりにはなりません

7.補助具の活用

補助具効果使用のポイント
T 字杖反対側の手で使用し股関節荷重を 10〜25 % 軽減歩幅を小さめにしましょう
股関節サポーター歩行時の骨盤安定と温熱効果長時間の連続装着は避けます
インソール足部回内や脚長差を調整し衝撃を吸収理学療法士の評価後に作成します

  

自宅でできるエクササイズ例

エクササイズ方法回数・頻度
クラムシェル横向きで膝を 90°、股関節 45° 屈曲し膝を開閉10 回 × 3 セット/日
ヒップリフト仰向けで膝を立て、臀部を持ち上げ 3 秒保持10 回 × 3 セット/日
立位ヒップアブダクション壁につかまり片脚を真横に 30° 挙上10 回 × 3 セット/日
チェアスクワット足を腰幅に開き、椅子に触れる直前で立ち上がる8〜12 回 × 3 セット/隔日

  

リハビリを進める際の注意点

  • 痛みが VAS 5/10 以上 続く場合は運動強度を 30 % ほど下げてください。
  • 股関節が 38 ℃ 以上の熱感を帯びている場合はアイシングを 10〜15 分行いましょう。
  • NSAIDs を長期使用するときは胃腸障害や腎機能低下に注意し、最小有効量 を守りましょう。
  • 症状が急激に悪化した場合は、専門医の画像検査を受けてください。

  

まとめ

  • 変形性股関節症のリハビリは 筋力強化・ストレッチ・有酸素運動・体重管理 の 4 本柱です。
  • 症状コントロールと進行抑制には 12 週間以上の継続的プログラム が推奨されます。
  • 補助具や物理療法は痛み軽減の「プラス α」であり、中心は 運動療法 です。
  • 体重を 5 % 以上減らすと痛みと機能が有意に改善する可能性があります。
  • 専門家の評価を受けて自分に合った運動強度を設定しましょう。

  

よくある質問(FAQ)

Q.痛みが強い日も運動していいですか?

ー軽い痛み(VAS 4/10 以下)のときはウォームアップを長めにして強度を下げれば運動を続けてもかまいません。中等度以上の痛みがある日は休むか水中運動へ切り替えましょう。

Q.サプリメントで効果が期待できるものはありますか?

ーグルコサミンやコンドロイチンの効果は限定的です。まずは運動療法と体重管理を優先し、サプリメントの使用は医師と相談してください。

Q.手術はいつ検討すべきですか?

ー保存療法を 3〜6 か月行っても日常生活に支障が大きい場合や、X 線で高度な関節狭小が進んでいる場合に人工股関節全置換術を検討します。


参考文献
  1. Osteoarthritis Research Society International (OARSI) Guidelines 2024 — Non-surgical management of hip OA
  2. American College of Rheumatology / Arthritis Foundation Guideline 2019 — Exercise and weight management recommendations
  3. BMJ Open Sport & Exerc Med 2022 — High-intensity resistance training improves hip abductor strength
  4. Aquatic exercise meta-analysis 2024 — Effects on pain and function in hip OA
  5. Nature Obesity 2024 — Body-weight reduction and symptom relief in hip OA
  6. Osteoarthritis and Cartilage 2024 — Rehabilitation year-in-review
  7. Meta-analysis 2021 — Exercise dose and muscle activation in hip OA

整形外科専門医・医学博士 佐々木颯太

    投稿者 ssksut92

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